Creo Simulate > 追加情報 > 特定項目の情報 > 疲労解析について
  
疲労解析について
この文書では、疲労に関する基礎情報を示し、Creo Simulate の疲労解析で使用する方法について説明します。取り上げる項目は以下のとおりです。
疲労の歴史
疲労の物理
E-N 法
歪みサイクル
平均残留応力の影響、ヒステリシスループキャプチャ、Rainflow 計数法を含みます。
疲労寿命に影響する要因
構成部品のサイズ、荷重のタイプ、表面仕上げ、表面処理 (すなわち機械処理、めっき、熱処理)、耐久性限度に対する表面処理の影響などがあります。
Creo Simulate の疲労解析と統合されたソルバー技術は nCode International から提供されたものです。疲労解析を実行するには、PTC から Fatigue Advisor のライセンスを取得する必要があります。
疲労の歴史
構成部品の設計では、ほとんどの場合、部品が変動荷重または周期的荷重にさらされます。そのような荷重は変動応力または周期的応力を引き起こし、それがしばしば疲労による破壊につながります。あらゆる構造的破壊の約 95% は疲労のメカニズムによって発生しています。
疲労過程で加えられるダメージは累積的であり、一般に回復不可能です。これには次のような理由があります。
疲労過程における材料の振る舞いの累進的な変化を検出することはほぼ不可能で、そのため破壊はしばしば何の前触れもなく発生します。
疲労応力を取り除いたあと休養の期間をとっても、それが測定可能な修復や回復につながることはありません。
木材や金属を大きく前後に繰り返し曲げると折れるということは周知の事実でした。しかし、応力の大きさが明らかに材料の弾性の範囲内であっても、繰り返し応力をかけると破断が生じることがわかってきました。19 世紀半ばに鉄道車両の車軸の疲労破壊が広く問題になると、周期的荷重の影響に関心が集まりました。多くの類似した構成部品が、単調引張り降伏応力のはるか下の応力レベルで数百万回単位の周期的荷重にさらされたのは、これが初めてのことでした。1852 年から 1870 年の間に、ドイツの鉄道技師、August Wöhler (アウグスト・ヴェーラー) は最初の体系的な疲労調査を準備し実施しました。
Wöhler のデータの一部は、Krupp 車軸鋼材のもので、公称応力 (S) と破壊までの周期数 (N) をプロットしてあり、これは S-N 図と呼ばれています。このような図の各曲線はいまでも Wöhler 線と呼ばれています。
注記 : 1 centner = 50 kg、1 zoll = 1 インチ、1 centner/zoll2 ~ 0.75 MPa
ほぼ同じ時期に、ほかの技師たちも、橋や船舶用装置、発電機の変動荷重に関連した破壊という問題に懸念を抱くようになっていました。20 世紀前半には、たんに疲労過程の結果を観察するよりも、疲労過程の仕組みを把握することに力が注がれました。そしてようやく 50 年代後半から 60 年代前半にかけて、2 つの手法が開発されました。1 つは線形弾性破壊力学 (LEFM) に基づいて亀裂の伝播を説明し、もう 1 つはいわゆる Coffin-Manson 局所歪み法で亀裂の発生を説明するものです。このような理解を通じて、現代の設計者と技師は、実験だけに頼ることなく、もっと疲労に強い構成部品を製作できるようになっています。実務的な観点からすると、実験に頼らない方が利益ははるかに大きくなります。
疲労の物理
1830 年以降、反復または変動する荷重にさらされた金属は、同じ荷重を 1 回かけて破壊するのに必要なレベルよりも低い応力レベルで破壊されることが認識されていました。
次の図は均一な正弦波形で変動する力にさらされた簡単な構成部品を示しています。一定期間後、穴の周囲に亀裂が入り始めたことがわかります。この亀裂は構成部品全体に広がり、加えられた応力に残りの手付かずの部分が耐えられなくなると、構成部品が壊れます。
亀裂の物理的進展は一般に 2 つの別個の段階に分けられます。亀裂開始相 (段階 I) と亀裂成長相 (段階 II) です。疲労亀裂はせん断歪みエネルギーの解放を通じて始まります。次の図は、せん断応力がスリップ平面に沿って局所塑性変形を生じさせる様子を示しています。荷重が正弦周期を持つため、スリップ平面はトランプのカードの山のように前後に動き、結晶表面上に小さなでこぼこができます。このような表面の変形は高さが約 1 から 10 ミクロンで、萌芽期の亀裂です。
亀裂はこのようにして始まり、やがて結晶粒界に到達します。この時点で、このメカニズムが徐々に隣接する結晶に伝わります。
亀裂がおよそ 3 個の結晶にまたがるほどに成長すると、その伝播の方向が変わります。段階 I の成長は、最大せん断平面の方向、すなわち荷重の方向に対して 45° の方向に従います。段階 II では、疲労の物理機構が変わります。亀裂は、幾何学的な応力集中部分を形成できるほどに大きくなっています。次の図に示すように、亀裂の先端に引張り塑性ゾーンが形成されます。この段階以後、亀裂は加えられた荷重の方向に対して直角方向に広がります。
疲労の物理機構が 2 段階に分かれるため、解析の方法も通常、2 段階に分けられます。段階 I は一般に局所応力 (すなわち E-N) 法を使用して解析され、段階 II は破壊力学に基づいた方法を使用して解析されます。
したがって完全な疲労予測では両方の方法を組み合わせて使用することになります。
全寿命 = 亀裂発生までの寿命 + 亀裂が広がり破壊するまでの寿命
ただし、ほとんどの機械部品は、その寿命のほとんどをどちらかの段階で過ごします。この場合、片方の段階だけを控えめに考慮することも普通です。たとえば、ほとんどの地上車両設計では、寿命は一般に亀裂発生までの期間に左右されます。構成部品は比較的剛性が高く、材料はかなりもろいものです。いったん亀裂が発生すると、亀裂が広がって破壊するまでに、比較的短い時間しかかかりません。
対照的に、多くの航空宇宙分野では、非常に延性の高い材料で作成した柔軟な構成部品が使用されます。この場合、亀裂は比較的ゆっくりと広がり、そのため通常は破壊力学法のほうが適切になります。
初期には、疲労の物理特性は広く理解されていませんでした。そこで August Wöhler は疲労解析をもっと実務的にとらえました。Wöhler が開発した方法は後に公称応力 (または S-N) 疲労解析として知られるようになります。これは段階 I と段階 II の成長を区別せず、その代わりに、公称応力の範囲を、完全な破壊にかかる時間に関連付けました。
S-N 解析は試験ベースの疲労解析ではいまも広く使用されていますが、CAE アプリケーションにとっては 1 つ大きな欠点があります。疲労の開始は局所塑性歪みによって促進されますが、S-N 解析では弾性応力を入力としているのです。そのため、S-N 解析は、塑性の局所領域を含む構成部品に対して CAE 解析を実行するには不適切です。この理由から、汎用性という点では局所歪み (または E-N) 法のほうが適しています。Creo Simulate の疲労解析では E-N 法を使用しています。
E-N 法
疲労試験では、砂時計のような形をしたさまざまな種類の材料の標本に、わずかな曲げや、ねじれ、張り、圧縮のようなさまざまな種類の荷重を周期的に加えます。E-N 法ではこのような試験によって疲労寿命を測定します。測定結果は、E-N 図に歪み (E) と破壊までの周期 (N) の関係としてプロットされます。低合金スチールとアルミニウム合金を例として、典型的な E-N 図を以下に示します。
Creo Simulate では、汎用的な疲労特性を使用して、低合金スチール、非合金スチール、アルミニウム合金、チタン合金をモデル化しています。この汎用的な特性は Baumel Jr. と Seeger によって編纂されたもので、Uniform Material Law と呼ばれています。これは実用目的で正確な疲労寿命を示すことは期待できませんが、構成部品に疲労の問題が発生する可能性があるか、製造を開始する前にもっと詳細な解析が必要かを判断するのには理想的です。Uniform Material Law の詳細については、Materials Science Monographs, 61, "Materials Data for Cyclic Loading, Supplement 1" を参照してください。
以下の解説では、Fatigue Advisor の疲労測定方法を理解するのに不可欠な疲労理論の 2 つの側面を取り上げます。
歪みサイクル
疲労寿命に影響する要因
歪みサイクル
E-N 手順を詳しく見る前に、疲労過程に寄与する周期的歪みには 3 種類あることを理解しておくと役に立ちます。以下の図と説明は、それぞれの種類について説明しています。
最初の図は、正弦波形の完全反転歪みサイクルを示しています。これは一般に過荷重がなく一定速度で動作している回転軸にみられる理想的な荷重条件です。また、ほとんどの疲労試験で使用される種類の歪みサイクルでもあります。この種類のサイクルの場合、最大 (max) と最小 (min) の歪みは大きさが等しく、符号が逆になります。通常、引張り歪みが正で圧縮歪みが負と見なされます。歪み範囲 (r) は 1 サイクル内の最大歪みと最小歪みの代数的差です。
r = maxmin
歪みの振幅 (a) は歪み範囲の半分です。
a = r/2 = (maxmax) / 2
2 番目の図は、最大歪みと最小歪みが等しくない、もっと一般的な状況を示しています。この場合、どちらも引張り歪みで、周期的荷重の平均オフセットが m = (max + min) / 2 と定義されます。
先に述べたように、ほとんどの基本的な疲労データは完全反転荷重を使用して収集されます。したがって、このようなデータを平均がゼロでない (m 0) 歪みサイクルに直接適用することはできません。引張りまたは圧縮の平均応力を持つ歪みサイクルでもっと現実的な推定寿命を予測するために、完全反転荷重を使用して実施された試験の結果は補正されます。使用する補正方法の選択は、平均応力が主として引張りか圧縮かに左右されます。
この理由は、以下の図を見るとわかります。これは歪み寿命 (E-N) 曲線に対する平均応力の影響を図式的に示しています。概念的にみると、引張り平均応力は亀裂を引っ張って開く役割を果たし、圧縮平均応力は亀裂を閉じる役割を果たします。一般に、影響は図の長い寿命の終端に集中し、引張り平均応力は寿命を縮め、圧縮平均応力は寿命を延ばします。
平均応力の範囲で E-N 曲線を計算するのに必要な試験は費用がかなりかかるため、平均応力の影響をモデル化する経験的な手法がいくつか開発されています。提案されている方法のうち、次の 2 つが最も広く受け入れられています。
Smith、Watson、Topper 法
Morrow 補正
性質上、圧倒的に引張りである荷重シーケンスの場合、Smith、Watson、Topper 法のほうが安全で、推奨されます。荷重が圧倒的に圧縮である場合、特に全面的な圧縮サイクルの場合は、Morrow 補正を使用して、もっと現実的な寿命を推定できます。Creo Simulate ではどちらの方法も採用しており、最も適切な方法が自動的に選択されます。Smith、Watson、Topper 法の詳細については、"A Stress-Strain Function for the Fatigue of Metals", Journal of Materials, Vol. 5, No. 4, 1970 を参照してください。Morrow 補正の詳細については、"Fatigue Design Handbook", Advances in Engineering, Vol. 4, Society of Automotive Engineers, 1968 を参照してください。
次の図は、実際の構造物で起きる周期的歪みに近い、もっと複雑で振幅が変化する荷重パターンを示しています。
このような可変振幅荷重の場合、信号から疲労ダメージサイクルを抽出し、各サイクルで発生したダメージを評価する必要があります。全ダメージは、各サイクルで発生したダメージの合計です。各疲労サイクルは、ヒステリシスループキャプチャと呼ばれる処理によって抽出されます。応力と歪みの軌跡が次の図のようにプロットされます。
応力歪みヒステリシスループを閉じると、歪み範囲と平均応力が返され、平均応力補正のために修正された E-N 曲線を使用してダメージが計算されます。この解析は、すべてのサイクルが抽出され、全ダメージが評価されるまで、歪み時間信号全体に対して実行されます。サイクルの抽出には、Rainflow 計数法と呼ばれる非常に効率のよいアルゴリズムが開発されています。Creo Simulate ではこのアルゴリズムを使用しています。
Creo Simulate では通常、線形弾性法を使用して、構成部品の疑似弾性歪みを決定します。言い換えれば、この方法は塑性を無視しています。疲労解析に進む前に、このような歪みは Neuber の関係を使用して非線形弾性塑性歪みに自動的に変換されます。
疲労寿命に影響する要因
前述のように、E-N 曲線は砂時計のような形をした標本による歪み制御試験に由来しています。
標準化された完全反転疲労試験を使用して、直径が約 6 mm の研磨された標本の基準線となる E-N 関係が決定されます。この試験で測定された疲労限度すなわち耐久性限度は 'e で表され、実際の構成部品の限度 (e) はそれよりも低く、これは実験室の外部における標本の変更を反映しています。特にスチールの場合、以下の事項の結果として、いくつかの経験的関係によって e の変異が説明されます。
構成部品のサイズ、Csize
荷重のタイプ、Cload
ノッチの影響、Cnotch
表面仕上げの影響、Csur < 1 (亀裂の成長を促進)
表面処理の影響、Csur >1 (亀裂の成長を抑制)
このような影響を明らかにするために、試験結果には一般に特定の修正係数が適用され、次のようになります。
e = 'eCnotchCsizeCloadCsur......
ここで、積 CnotchCsizeCloadCsur の逆数は、まとめて破壊強度修正係数 Kf と呼ばれています。
Kf = 1 / (CnotchCsizeCloadCsur......)
非常に重要なことですが、あらゆる修正用の係数は経験的で、保守的であり、一般にスチールにしか適用できないことを忘れないでください。近似的な傾向が示されるという以外には、疲労過程そのものに対する基礎的な洞察はほとんど、あるいはまったく得られません。特に、測定された適用範囲以外の分野で使用すべきではありません。
疲労寿命に影響する要因の詳細については、以下を参照してください。
構成部品のサイズの影響
荷重のタイプの影響
表面仕上げの影響
表面処理の定性的影響
耐久性限度に対する表面処理の定量的影響
構成部品のサイズの影響
金属の疲労は、交互に加えられる応力場の影響のもとに、核が形成され、その後、亀裂様の傷が成長する結果、生じます。理論的には、破壊は最も弱いリンク、たとえば最も都合のよい向きの金属結晶から始まり、さほど都合のよくない向きの結晶内を成長して、最終的な破壊に至るとされています。直感的には、交互に加えられる応力にさらされる材料の体積が大きいほど、最も弱いリンクが早く見つかる可能性が高くなると想定するのは妥当なように思われます。実際の試験データでも、特に曲げとねじれの場合に、サイズの影響が存在することが確認されています。
断面に蓄えられた応力の変化は、曲げ、および程度は低いもののねじれで、表面材料の薄い層に最大表面応力の 95% 以上が集中します。大きな断面では、この応力変化は小さな断面よりゆるやかです。そのため重大な傷を含む可能性のある材料の体積が大きくなり、疲労強度が低くなります。この影響は応力変化が存在しない軸張力では小さくなります。Csize の値は、以下のどちらかから推定されます。
試験標本の軸の直径 d が d < 6 mm の場合
Csize = 1
試験標本の軸の直径 d が 6 mm < d < 250 mm の場合
Csize = 1.189d-0.097
サイズの影響は、車両の駆動系などにみられる回転軸の解析の場合、特に重要です。
構成部品に丸い断面がない場合は、幅 (w) と厚さ (t) を持つ長方形の断面について、以下の式で等価な直径 (deq) を計算します。
deq2 = 0.65wt
荷重のタイプの影響
周期的荷重の 1 つのタイプ、たとえば軸張力を使用して測定された疲労データは "補正" して、ねじれや曲げのように異なる荷重を使用した試験で得られるデータを表すこともできます。標準化された回転曲げ試験は、完全反転曲げという条件のもとに試験を実施する必要があります。
ある荷重条件から別の荷重条件に変換するときに、耐久性限度 (e) で使用する C load の値を以下に挙げます。
メジャー荷重
ターゲット荷重
C load
ベンド
1.25
ねじれ
0.725
ベンド
ねじれ
0.58
ベンド
0.8
ねじれ
1.38
ねじれ
ベンド
1.72
この表の値を使用すると、軸張力荷重が e という歪みを生み出す場合、曲げ荷重で生み出される歪みは 1.25e ということになります。
耐久性限度に対する影響に加えて、荷重条件は対数-対数スケールで E-N 曲線をプロットするときに使用される Basquin スロープ (b) にも影響します。この影響は通常、e に加えて、103 サイクルでの歪み (3) を修正することで考慮されます。以下の係数が、3 修正係数である C'load を定義するのに使用されます。
メジャー荷重
ターゲット荷重
C' load
ねじれ
0.82
ベンド
ねじれ
0.82
ねじれ
1.22
ねじれ
ベンド
1.22
表面仕上げの影響
疲労破壊では、非常に高い割合で構成部品の表面に核が形成されるため、表面状態が、疲労強度に影響する極めて重要な要因になっています。さまざまな表面状態は、通常、実験室の研磨された標準標本を基準として判断されます。通常、傷、穴、加工マークなどが、亀裂の核形成を助ける追加の応力拡大因子となることで、疲労強度に影響を与えます。
下図は、粗い表面仕上げによって高強度スチールが柔らかいスチールよりも悪影響を受けることを示しています。この理由から、表面仕上げ補正係数 Csur < 1 は、引張り強度に強く関連しています。ここでは、表面仕上げ補正係数は、研磨、機械加工、鍛造など、定性的な用語で仕上げを分類しています。
この図に示した曲線の一部は表面仕上げ以外の影響も含みます。たとえば、鍛造の曲線と熱間圧延の曲線には脱炭の影響が含まれています。
その他の図は、RA (平均面積の平方根) や AA (算術平均) のような表面の粗さの定量的測定値を使用することで、表面仕上げ補正係数をもっと定量的な方法で示しています。下図は表面仕上げ補正係数に対する表面の粗さの影響を示しています。
製造プロセスそれぞれに関連した表面の粗さの値は各種ハンドブックに記載されています。例を以下に挙げます。
仕上げの種類 (ミクロン)
表面の粗さ
旋盤形成
2.67
部分的に手研磨
0.15
手研磨
0.13
グランド
0.18
超仕上げ
0.18
グランドと研磨
0.05
表面処理の定性的影響
表面仕上げの場合と同様に、表面処理も疲労強度、特に耐久性限度に大きな影響を与えます。表面処理の正味の影響は、自由表面における残留応力の状態を変更することです。
残留応力は、変形している構成部品の断面全体にわたって塑性変形が均一に分布していないときに発生します。上図では、曲げることによって金属棒の表面が張力の変形を受けています。
時間 T=1 で、曲げモーメント M1 が加えられ、これは弾性範囲内です。
時間 T=2 で、曲げモーメントが M2 に増え、降伏応力 (Sy) に達して、表面が塑性変形を起こします。
外力を取り除くと、塑性変形が起きた領域によって、隣接する弾性領域が歪みのない状態へと完全な弾性回復をするのが妨げられます。このようにして、弾性変形した領域には残留張力が残り、塑性変形した領域は残留圧縮の状態になります。その結果が時間 T=3 における応力分布です。
多くの理由から、残留応力は、外力によって生み出された応力と同一と見なすことができます。したがって、構成部品の表面に圧縮残留応力が存在していると、疲労破壊の可能性は実質的に減少します。
上図は加えられた応力と残留応力を重ね合わせて示しています。
上部の図は、曲げモーメント M を受け残留応力がないビームの弾性応力分布を示しています。
中央の図は、ショットピーニングのような機械表面処理に関係する典型的な残留応力分布を詳細に示しています。表面の圧縮応力は、断面の内部に対する等価な引張り応力によって打ち消されていることに注意してください。
下部の図は、加えられた応力 (曲げモーメント M によって発生) と残留応力の代数的加算による分布を示しています。表面の最大引張り応力が残留応力の量によって減っていることに注意してください。また、ピーク引張り応力がビーム内部に移動されています。この応力の大きさは、加えられた応力と残留応力の分布の変化に左右されます。このような条件のもとでは、表面下での亀裂の発生も可能性として考えられます。
表面処理は大きく、機械処理、熱処理、めっき処理に分けられます。機械処理と熱処理は、圧縮層を作ります。めっき処理は、引張り残留応力を残します。以下では、各処理について詳しく説明します。
機械処理 - 残留圧縮応力を導入する主たる商業的方法は、冷間圧延とショットピーニングです。加工硬化の結果、材料の強度の変化が発生しますが、疲労強度の向上は主として圧縮表面応力のおかげです。表面圧延は大型部品に特に適しており、クランクシャフトや鉄道車両の車軸のベアリング表面など、重要な構成部品に頻繁に使用されています。ねじ山が圧延されたボルトは通常の加工をされたねじ山の 2 倍の疲労強度を持ちます。
ショットピーニングは、構成部品の表面にファインスチール製または鋳鉄製の玉を打ち付ける方法で、小さな大量生産部品の処理に特に適しています。
冷間圧延とショットピーニングは、長寿命のときに最大の効果を発揮することを忘れないでください。寿命が短い場合は、ほとんど、またはまったく効果がありません。
その他の修正係数と同様に、補正係数を使用できます。耐久性限度 e を調整することで、このような機械的に生み出される圧縮応力の影響を考慮します。一般に、ピーニング関連の係数はおよそ 1.5 から 2.0 です。
熱処理 - 熱処理は、炭素 (浸炭) または窒素 (窒化) をスチール部品の表面および内部に拡散させることに基づいた処理です。どちらの種類の原子も格子間原子、すなわち隣接する鉄原子の間の空間を占める原子で、それによってスチールの強度を高め、容積変化を通じて表面に圧縮残留応力を残します。
浸炭では一般に次の 3 段階の処理を行います。
炭素を含む固体を入れた箱の中にスチール部品を詰める
密封して真空にする
摂氏約 900 度に加熱する (加熱時間は必要な焼肌の深さによる)
別の方法として、天然ガスのような熱い浸炭ガスの入った炉で構成部品を加熱することもあります。こちらの処理には、迅速で正確であるという利点があります。さらに、浸炭サイクルの後に、浸炭物質を使わない拡散サイクルが続く場合もあります。こうすることで炭素原子が構成部品の中に一層拡散し、変化がなだらかになります。
窒化処理は、本質的にガス浸炭と非常に似ています。違いは、アンモニアガスが使用される点と、構成部品がもっと低温で処理される点です。一般に、48 時間、摂氏約 550 度の処理で窒化焼肌の深さが約 0.5 mm になります。窒化が特に適しているのは、ギアや溝付きシャフトのようにノッチのある構成部品の処理です。この処理の有効性を次の表に示します。
耐久性限度 (MPa)
ジオメトリ
窒化なし
窒化あり
ノッチなし
310
620
半円形ノッチ
175
600
V ノッチ
175
550
めっき - スチール構成部品のクロムめっきとニッケルめっきは、表面に引張り残留応力を作り出すために、耐久性限度を半分以下に減らすことがあります。このような引張り応力はめっき処理そのものの直接的結果です。機械的に引き起こされた表面応力の場合と同様に、めっきの影響は、長い寿命の終端で、また強度の高い材料で、最も顕著になります。
めっき処理をする前に、ショットピーニングや窒化などを行って圧縮残留応力を導入しておくと、めっきの悪影響を減らすことができます。ほかに、めっき後に構成部品を焼きなまして張力を解放するという方法もあります。
耐久性限度に対する表面処理の定量的影響
表面処理の効果は表面仕上げに左右されます。次の表は、表面処理によって耐久性限度応力が増加することを示しています。
耐久性限度の増加
仕上げ
ショットピーニング
冷間圧延
窒化
研磨
+15%
+50%
+100%
グランド
+20%
+0%
+100%
加工
+30%
+70%
+100%
「熱間圧延」(Hot Rolled)
+40%
+0%
+100%
「鋳造」(Cast)
+40%
+0%
+100%
「鍛造」(Forged)
+100%
+0%
+100%
表面仕上げによってどんな補正がされていても、表面処理を行うと、その後、上の表のような影響が生じます。たとえば、加工によって耐久性限度が 30% 減った場合、冷間圧延によって耐久性限度が 70% 増加して、損失を回復できることが表からわかります。